……(パリのレストラン、マキシムの)給仕長の案内で席についたとき、私はハッとした。
 横のテーブルに新聞や雑誌の写真でよく知っているウィンザー公と、シンプソン夫人と呼ばれる同公妃がおられた。ほかに四人の男の客。
 給仕長が私にささやいた。 「毎週金曜日の夜あの席を予約して、お二人ご一緒においでになります」
 シンプソン夫人は私のあこがれの女性だった。英国王エドワード八世が、離婚歴のある米国籍のシンプソン夫人と恋に落ち、彼女と結婚するため王冠を捨ててウィンザー公となったのは1936年末のこと。
 この事件に興奮した私は、何のとりえもない小娘のくせに「私も女だ。一生に一度はこんなすばらしいことを……」といきり立ったのは、とんだお笑い草だった。
 シンプソン夫人は三十九歳。 当時の日本の常識では、とっくに女の盛りをすぎた年だ。 この"女のいのちの長さ" を知らされたことも、私の興奮材料の一つだった。
 マキシムでお見かけした時を逆算してみると、夫人は六十三歳であったろう。非常にシンプルな形の石竹色のドレスに、宝石でない濃緑の玉をつらねたネックレス。一座の中心になって、にこやかに客をもてなしておられた。 会話の内容までは聞きとれなかったが、その動作や客の反応から、才気かんぱつ振りがうかがわれた。ほとんど白髪のウィンザー公には老いの影が濃く、一歩退いた姿で深く椅子にかけ、ときどき敬愛をこめた視線を夫人に向けてうなずいておられた。 万事を夫人に任せきった安らかな公の微笑に、私は世紀の恋″の完成を見る思いだった。
 私のテーブルはシャンペンを飲みながら、ゆっくり夜食をした。 私はフィレ・ド・ソール・アルベールという舌びらめの料理を注文した。 これはマキシムの世界一″の給仕長とうたわれたアルベールの名を冠した料理である。 舌びらめはフランス料理の最も重要な材料の一つで、歴史的なシェフ、エスコフィエは百八十五種の舌びらめ料理を考案し、アルベールはヴェルモットで味をつける百八十六番目の料理をつけ加えた。
 アルベールは、私がウィンザー公夫妻を見かけた時の一年ほど前に死んだ。当時はマキシムもまだ全盛を誇っていた時代である。今は観光客向きのパリ名所となり、客種も変った、と聞くのは淋しい。


夏の花1

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ヨルガオ・夜顔(流通名:ユウガオ・夕顔)

ヒルガオ科サツマイモ属 蔓性一年草
原産地 熱帯アメリカ
花期間 8月〜10月
別名 ヤカイソウ(夜開草)、ムーンフラワー
流通名はユウガオですが、本当のユウガオはウリ科ユウガオ属のカンピョウの花が植物分類学上のユウガオです。
 夕方、4時を過ぎると開花して、甘く強い香りを放ちます。葉も茎もアサガオよりは少し大きくなります。成長力旺盛なので、蔓棚を竹などで作って這わすと、夏の盛りには良い日陰となり、夜は花と香りを楽しめる優れものです。

作り方

@シタビラメの頭の先を包丁でしごいて、皮を少し浮かし、指で尻尾の方に
  引っ張って、皮を一気に剥く。指に塩をつけておくとぬるぬるせず剥きや
  すい。 下の皮も同様にして剥く。 
  頭を切り落とし、腹のほうからワタを出して、水でよく洗う。
  両側の縁側の小骨がついている部分を切り落とし、尾の先も切る。
A平たい器に入れ、牛乳を上から注いで浸し、20分ほど臭み抜きをする。
B次に、シタビラメの水気をペーパータオルなどで拭取り、塩コショウをする。
  薄力粉をまんべんなく両面に付け、余分な粉は払い落す。
Cバターとサラダ油を熱したフライパンに黒い方の表身を下にして入れ、少し
  弱めの中火にして焼く。焦げ付かないようにフライパンを揺すったり、魚の
  向きを変えたりして、焼き色がついたらひっくり返して裏も焼き、中まで焼
  きあげる。
D皿に盛る。 添えものとして、茹でジャガやアスバラのバター炒めがあれば
 なお良い。パセリを飾る。レモン汁をかけて召し上がれ。
 濃い目の味が良い場合は、さきほどのフライパンの焼き汁をいったん捨て、
 バター適量を熱して薄く色を付け、焦がしバターにしてシタビラメにかける。

シタビラメ(ソール:sole)・・・・・・・一人当て一匹
塩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少々
コショウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少々
牛乳(臭みとり用に)・・・・・・・・・・・・・・・・・200cc
小麦粉(薄力粉)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・適量
バター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・適量
サラダ油・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・適量
レモン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一匹当て1/4個
パセリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・適量

角田房子(「味に想う」・『シンプソン夫人』より抜粋)


レシピ

材料

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角田房子 ノンフィクション作家、1914年12月5日生まれ、東京都出身

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味の華

シタビラメのムニエル